令和のキャリアを考えるブログ

【転職支援】「転職先で活躍できるのか」という視点の大切さ(後編)

前回は、私の知り合いであるYが外資系証券会社に転職し、わずか4か月で退職した顛末について書きました。
後編では、Yの話を踏まえ、私の実体験も踏まえながらキャリアを考える上で大切なことを書いてみたいと思います。

信頼の価値は無限大

上司は信頼する部下に仕事を振り、クライアントは信頼する企業をパートナーに選び、部下は信頼する上司の元で働くことを願う。多くの仕事は信頼の上に成り立っています。
労働者は信頼貯金ゼロの状態で会社員生活をスタートし、仕事で成果を出すことで徐々に貯金を貯めていきます。
信頼は簡単に壊れますが、築くのは大変です。

ここに、管理職(=マネージャー)転職の難しさがあります。
下のポジションからマネージャーに上がる場合と異なり、部下の仕事のイメージや部下同士の人間関係を全く把握していない状態でマネジメントを任されることとなります。
当然、部下は、悪意がなくとも「この人は私たちのことを分かってくれるのか・・?」という懐疑的な目で新入り上司を見つめることとなります。
私もこれまで、部下の信頼を得られず、チームビルディングに苦労する管理職中途採用者を多く見てきました。

Yは新卒入社の日系証券会社では、おそらく信頼貯金が相当溜まっていたのでしょう。
海外駐在の後は、それなりのポストも見えていたでしょうから、信頼貯金という含み益が、が給料・ポジションUPという目に見える形で資金化できたかもしれません。この信頼を投げ売るべきだったのか、よくよく考えるべきでした。

また、仮に外資へ転職する場合でも、あくまでマネージャー候補の1人として入り、スタッフレベルとの人間関係を築きつつしっかり手を動かす仕事をして、成果が出てからマネージャーのタイトルを得るべきでした。
信頼貯金があれば、給料は後からついてくるものです。

社格に囚われると本質を見失う

Yの中には、外資系証券会社>日系大手証券会社>日系小規模証券会社という明確なヒエラルキー(悪く言えば差別意識)がありました。
金融やコンサル業界は、やっている仕事があまり変わらないこともあり、「社格」や「序列」といった会話がよく展開されます。

私は大手企業を辞めて、それほど有名ではない会社に転職しましたが、家族はそれなりに落胆していましたし、周囲からも「都落ち」とか「お前も終わったな」と揶揄されました。
確かに、仲間内で集まって、「それどこの会社?」とか言われると寂しさを感じるのも事実です。
社格の高い会社に勤めることは、ある種のブランドを身に纏うようなものかもしれません。

しかし、社外で会社名を披露する時間より、社内で仕事をしている時間のほうが圧倒的に長いはず。対外的に自慢できる会社で毎日10時間以上充実していない時間を過ごすのと、その逆では、後者のほうが健全なメンタルで日々を過ごせるはずです。

また、いわゆる社格の高い会社には優秀な人材が集まり、その場で自分が勝っていけず埋もれてしまうリスクも見つめる必要があります。
実力不相応な会社に無理やり入ってしまい、ろくな仕事も任されない・・という状態になることも得策とは言えないでしょう。
ネームバリューにとらわれず、自分が活躍できるかという視点で会社を選ぶことも大切です。

「感情」より損得「勘定」

Yの判断を急がせた理由に、現職への負の感情がありました。こうした不満や苛立ちは、時に人の判断を狂わせてしまうものです。

本来、仕事をする上で、感情というのは必要のないものです。そもそも会社の環境は刻々と変わり、自分ではコントロールできません。
職場環境がどう変わっても、クライアントや上司がどんな人でも、感情に邪魔されずに淡々と仕事をして結果を出すことがプロフェッショナルなのでしょう。

1つ視点を変えて、感情ではなく「(損得)勘定」でこの話を見ると、1社目に留まる方が「得」と言えたかもしれません。
1社目は少なからずMBAに行かせてやれないことに対してYに申し訳ない、と言う気持ちがあり、海外赴任のオファーを出したのでしょう。
またとない仕事のチャンス、会社の好意を受け取り、海外赴任で結果を出しながら自分のキャリアの価値を高めて、海外赴任終了時に転職と現職に留まる道の両方を天秤にかけて選択しても遅くなかったはずです。

終わりに:転職エージェントの功罪

以上が前編・後編にわたってお送りしてきたYのキャリア・ストーリーです。
少し古い記事ですが、似たような話が特集されていたのでリンクを貼っておきます。

diamond.jp
diamond.jp

最後に、私は転職エージェントの役割について、疑問に思うことがあります。
後でYに聞いた話ですが、転職エージェントはYに対して、「現職に留まった方が良い」「外資系でマネージャーはまだ早いのでは」と言うアドバイスを一切していないとのことです。
それどころか、Yが3か月目で退職を相談したところ、「3か月未満の離職だとエージェント側に手数料が入ってこないので、せめて後1か月いてくれ」と言う自社利益のみを考えた意見しかもらえなかったとのことでした。

転職エージェントが不動産仲介と同様、実質的な「仕事の仲介会社」であり、転職成功時の手数料=ノルマである以上、より多くの人を、より高い給料で転職させることがミッションになるのは分かりますが、結果的に短期的な視野での転職が増えている点について、その責任のいったんはあるのだろうと思います。
やや打算的ですが、中長期的なキャリアのアドバイスはもらえない、と言う前提で転職エージェンとは接した方が良いのかもしれません。